+距離の長さは何cm?+





「――・・・?」



ベッドで寝ていたのに、僕は携帯の着信音で目が覚めた。
その携帯の着信音が鳴り止んだとともに、今まで隣で感じていた温もりが消えていく。


『    』


遠くから聞こえるのは、聞き覚えのある声。


『    』


でも、聞こえてくる言葉は聞いた事がない。



「・・・何語?」



いや、ディーノが日本語以外で話すのはイタリア語ぐらいしかないだろう。
というと、話し相手はマフィアの人間だと思う。



・・・あんなのがマフィアのボスだなんて、誰が想像するだろう。


人懐っこい性格のくせに。


そして、それは僕の苦手とする性格の人種。




それなのに
何で、こんな関係になっているのだろう。




どうして、僕はこんなに・・・




「恭弥、起きたのか?」
「起きちゃ悪い?」



質問を質問で返す。



ディーノはまだ話し中だったのか、片手に携帯を握っていた。
電話から、微かに誰かの声がする。


「話し中なんでしょう?早く話しなよ」
「そりゃあ、そうなんだけど」



そう言いながら、ディーノは僕の隣に座った。




・・・なんで隣に座るわけ?




『    』




話している時のディーノの顔は、真剣そのものだった。



普段では見られない表情



知らない言葉に、見慣れない表情。



僕は気がつくと、ディーノに見とれていた。




「・・・・・・っ!」




・・・何見とれているんだよ。


自分で自分が嫌になる。


その時、パタンと携帯を閉じる、あの独特な音がした。



「話、終わったの・・・?」
「ああ」
「部下の人?」
「まぁね」



苦笑しながらも、笑っている。



「って事はイタリア人の人?」



僕の質問にディーノはきょとんとしていた。



・・・いや、僕も自分自身、不思議に思った。



何で、こんな話を言い出したんだろう。



「いや、日本人の部下だけど・・・」
「日本人相手なら、日本語でしゃべりなよ。日本語しゃべれるでしょう?」



…何か変な話をし始めた自分がバカみたい。


そう思ったら、眠気が来たから僕は二度寝しようとした。


でも、ディーノが僕の頭を撫でてくる。



そんなことしたら
・・・寝るに寝れないんですけど。



殴ってやろうかな・・・・・・



「そういえば、恭弥さ、さっき俺に見惚れていただろ?」


ふと、そんな事を言われて、僕は驚いた。
そして、そのままディーノを見ると、ディーノは照れたように笑っていた。



あの時、こっちを見ていなかったから、気づかれてないと思ったのに。



「――別に」



表情が表に出る前に、僕はディーノから顔をそらした。


今の僕の顔を見られたくないから。


「照れちゃって照れちゃって♪」
「咬み殺すよ?」


笑って言うと、ごめんなさい。と即答で返事が来た。




本当なら、この後に文句無しでトンファーで数発殴るんだけど、
今、こんな格好の僕はトンファーを持っていない。


というか、第一に今まで、僕は寝てたし。



「きょーうや♪」



そう言って、ディーノは僕に抱きついてきた。


いつもの人懐っこい笑顔で。


「何?」
「今の恭弥の格好、かなり色っぽい」
「――誰がこんな格好にしたんだっけ・・・?」



俺でーす、なんて言いながら、ディーノは僕の首筋に顔を埋めてきた。




・・・ちょっと待って



「――何やってんの?」
「え?」



ディーノは顔を上げて、きょとんとした表情をしていた。


「え?じゃない。――まだする気?昨日散々したのに・・・?」


ため息をつきながら言ってみた。


本当に、昨日の夜はどっかの誰かさんが見境無く攻めてくれたものだから、
僕は体中ダルいんですけど……?



「だって、今日は一日自由だから、恭弥と一緒にいられるから」
「アンタの予定は聞いてない。第一に僕は」
「恭弥、今日は土曜日だから、学校は休みだろう?」
「それはそうだけど・・・」



そう言われると返す言葉が見つからない。


・・・・・・けど


「僕が下って事がいつもムカつくからヤダ」



どいて、とディーノを押し退けた。



・・・・・・大体、僕が何で下な訳?

だからといって上もヤダだけど。



「・・・分かったよ、恭弥」



・・・何が"分かった"だよ。



「んじゃあさ、今日はこの部屋でのんびりしようぜ、恭弥」
「・・・・・・」



疑いの眼差しをディーノにかけると、ディーノは悟ったのか慌てだした。



「・・・襲いません」
「本当に?」
「本当です」
「じゃあ、信じてあげる」





ふと、窓を見ると、朝日が空高くへと昇りはじめていた。


・・・・・・たまには休日を、他人と一緒に過ごしてみるのもいいかもしれない。
何て考えてしまった僕は、苦笑した。


本当に、僕はディーノと出会ってから、変わった気がする。


そんな事、絶対にディーノには言ってやらないけど。



■END■
私の中のディノヒバの雲雀さんは暴力乙女心の持ち主だと思うよ(笑)