ネフリーが今日、城へやって来るらしい。
朝、一日の予定を教えてくれたジェイドが言っていた。


正直言って、俺はネフリーに会う自信が無い。


幼い日の・・・あの初恋心を思い出してしまうから。
他の人と結婚したネフリーに、俺はまだ、恋心を抱いているからだ。





+わが宿命に抗うものとは・・・?+




「失礼します。お久しぶりです陛下」
「久しぶりだな、ネフリー。元気にしていたか?」
「ええ、私は元気ですわ。陛下こそ、お元気で何より」



俺の私室のドアを静かに開けて、ネフリーはやって来た。


・・・よし、最初は普通に話せたぞ。
俺は妙に安心した。


来客は、謁見の間に来るのは普通だと思うはすだ。
けど、相手が知り合いなら、式典時以外、私室に通すようにしている。


まぁ、その方が、かたっ苦しい挨拶をしなくて済むからというのも理由だけど。


ネフリーの訪問は、ケテルブルクの予算案についての話だった。
・・・いや、ネフリーは私用で来るなんて事は絶対に無いからなぁ。


ジェイドと違って。



一通り話が終わると、俺達は久々に雑談で盛り上がっていた。
話のほとんどは、幼いころの思い出話。


「陛下はいつもサフィールをイジメてましたよね」
「そうだったか?」
「ええ。泣いているサフィールに、いつも私、一緒にいましたもの」


ネフリーは笑いながら話す。
俺も笑いながら話す。


やっぱりネフリーと一緒にいると落ち着く。
・・・本当にネフリーは、俺にとって大切な存在なんだと、改めて実感するな。


「私がサフィールを庇うと、陛下は余計にサフィールをイジメるんですもの」
「だって俺は、大好きなネフリーと一緒にいるサフィールに嫉妬していたんだからさ」


・・・そう言うと、一瞬だけネフリーの表情が変わった。


「……また、それですか?陛下」
「しょうがないだろう?ネフリーが好きなんだからさ」




そう。
俺は、ネフリーに告白した事がある。
でも
それは丁寧に断られた。



"私とピオニーは身分が違うから"



・・・そう言って。




「あの頃の陛下は、まだ若かったですもの」
「まだってなんだよ。まだって・・・」
「もう、私達は立派な大人ですもの。あの頃とは、もう、違うものですわ」


「・・・違わなくなんかない!」


俺は、そう呟いてネフリーの腕を掴み、自分の胸にネフリーを抱きしめた。

「陛下・・・っ離してください」

ネフリーは俺の胸の中から逃げようとする。
俺は逃げられないように、腕の力を少しだけ強くして、さらにギュッと抱きしめた。



「・・・陛下」
「名前を・・・呼んでくれ。昔みたいに」
「"ピオニー"・・・」


昔みたいに名前で呼ばれるだけで、それだけで俺は嬉しくなった。






告白した、あの日。
ネフリーも俺も、お互いがお互いの事を好きだと思っていた。


・・・でも、俺の告白をネフリーは断った。
自分と俺は身分が違うからって。


ネフリーが平民で、俺がマルクトの次期皇帝だから。
俺は、そのとき初めて、自分の立場を恨んだ。


あの父親のせいで、俺は幼い頃にケテルブルくに軟禁されてた事は、全然恨んでなかった。
むしろ、それの方が俺にとって一番楽しい思い出だった。


でも俺は、ネフリーの事が諦めきれなくて、
少しでも均等にと、もうケテルブルクの知事をしていたネフリーに子爵の地位を授けた。



それでもだめだった。



ネフリーがお見合いをして結婚してしまったから。
あまつさえ、俺が皇帝に即位すると、名前も呼んでくれなくなった。



俺だって忘れようとした。



でも気がつくと、俺はネフリーの事ばかり考えてる。


ある日また気がつくと、ブウサギにネフリーと名づけて一番可愛がっていた。
世継ぎ問題で色々見合い話もくる。


ネフリーを忘れようとして、他の人を抱いた事もある。



・・・でもダメだった。



心の底では、いつもネフリーの事を考えていた。



ネフリーじゃなきゃ
ネフリーじゃなければ


俺は・・・・・・
俺は・・・



「ピオニー、私は・・・」
「もう少しだけ、このままでいさせてくれ」


そう言うと、頭に何か触れる感触がした。
ネフリーが俺の頭を撫でている。


「俺、子供じゃ・・・・・・」
「いいえ。ピオニーは幾つ年を取っても、子供のまま・・・、
私が大好きだったピオニーのままです」
「ネフリー・・・?」


ネフリーの顔は微笑んでいた。


「ピオニーの告白は、とても嬉しかった。
でも私は、嬉しい気持ちと一緒に、怖い気持ちがあったの」
「ネフリー・・・」



「だから、あの時は、私は自分で気持ちに蓋をした」



「・・・」
「ありがとう。本当に嬉しかった・・・」
「・・・ネフ」
「でも、私は今の生活が・・・あの頃と同じぐらいに幸せです」




「だからピオニーも・・・幸せになって?」




無茶な事を言う。
さすが、ジェイドと同じ血を引いてることだけある。


ネフリー無しの俺の幸せは、いつ来るのだろうか・・・






―愛おしい人は―


―優しい言葉で残酷な事を言う―


―俺は、彼女の呪縛から抜けられない―


―幸せな日がやってくるのは―





・・・いつだ?







■END■
ピオネフ。
お互い同士好きなのに、立場というものが二人を邪魔する。

・・・こういう話っていいですよね(え?