今日は、雨が降っていた・・・ +雨音・そして+ 俺は自分の城の中を散歩がてら歩いている。 いつまでも同じ椅子に座ってばっかも飽きるしな。 城下町に行くのは何人もの護衛がついて回るから、出歩く気にもなれないんだなぁ……。 今日は朝から雨。 それもかなりの、どしゃ降り。 雨の日は嫌いな人が多いらしい。 気持ちが知らない間に鬱になるんだ、とジェイドが前に言っていた気がする。 でも俺は雨は好きだ。 だってさ、何かが洗い流されそうな感じがするから。 戦争という名で多くの人間を殺める命令を下した時とか、特にそう思う。 なんて考えながら、ふと外を見た。 「ん・・・?」 外にはずぶ濡れの人間が一人。 こんな日に傘も差さないで…と思って見つめていたら、 その人物が自分の知っている人物だと気づく。 「・・・アスラン、か?」 そこにいたのは、俺の部下の一人アスラン・フリングス。 本人にも周りにも言った事は無いが、俺の片想いの相手である。 何で、雨の中傘も差さないでいるのかと思いつつ 俺はアスランの元へ足早に向かった。 「アスラン!」 叫んで呼ぶと、アスランが振り返った。 「・・・・・・陛下」 アスランはやっぱりずぶ濡れで、それでも、俺にいつものように笑いかけてくる。 俺は、そのアスランの顔が好きだ。 でも今は、その姿が、とても辛そうで・・・・・・ 何でこんなに辛い顔をしてんだろう。 ・・・・・・あ。 アスランはここ数日、国外れの小さい内乱を鎮圧する為に出かけていたはずだ。 今日には鎮圧して帰ってくるだろう、と誰かが言ってたな。 もしかして……そこで何かあったんだろうか? 「どうした、アスラン。お前らしくもないぞ」 「…っ、へ…いか…」 お前らしくない。そう言った瞬間に、アスランの表情が変わった。 何かを思い出した様な目。 今にも泣きそうな顔つきに変わる。 俺は、そんな顔見たくなくて、アスランの腕を引っ張って抱きしめる。 アスランはビックリした様に俺を見つめていた。 「!?……あの…陛下…」 「・・・・・・どうしたんだ?アスラン」 「・・・・・・」 優しく聞いてもアスランは何も言わない。 「皇帝命令だ。・・・・・・言えアスラン」 普段ならこんな命令しないのに。 あまり、権力を使った『この手』は使いたくないし。 暫くアスランは黙っていた。そして、ゆっくりと静かに喋りだした。 「・・・・・・言われてしまったんです」 「何が?」 「・・・・・・悪魔、って」 そう言ってアスランは、俺にギュっとしがみつく。 まるで、その時を思い出している様に。 「・・・本当に、恐怖を見るような目で私を見つめていて、震えていて・・・」 「まだ、子供なのに…」 「その子は結局・・・・・・」 「降伏しない、又は抵抗するならば、皆殺しにせよ。そう言う命令だったので・・・・・・」 それ以上言わなかった。 言わなくても分かるから。 「・・・・・・すまなかった」 静かな声で、俺は謝った。 アスランは初めてだったのだろう。 子供に、刃を向けたのは。 ジェイドと違って、アスランは優しい性格だ。 敵対勢力と戦った時には、敵を殺さず、生かして降伏させる事が多いくらいだ。 そして、降伏した敵兵士には厳しい処罰はしない。 裏で言われているが、軍人としては要素が欠けているかもしれない。 けど、確かにそれはアスランという人物を引き出しているのだ。 そこにも、誰もが十分惹かれる。 俺はそう思う。 内乱は一つの村で起こった。 一つの村で内乱が起こると、内乱を起こしたのはその村の有権者。 そして仲間内には必ず反乱する村人の子供がいるって事に。 誰だって気づくはずだ。 そう、俺だって気づいていたはずなんだ。 「いえ・・・任務、ですので、仕方が無いんです」 俺に見せる笑顔は、本当に辛そうな笑顔をしていて。 その時、アスランの顔から涙が一粒流れたのを見た瞬間 俺は、衝動的にアスランに口づけていた。 「へ・・・陛下!?」 唇が離れると、アスランは顔を真っ赤にしながら驚いた様子で俺を見ていた。 自分自身も、何をしたのか一瞬だけ分からなかった。 涙を見た瞬間、その顔が見たくないからって……。 今まで自分の気持ちを抑えていたのに。 「いやあ…、落ち着くかなぁっと思ってだな・・・」 アスランに、自分の今の気持ちを覚られない様に言い訳を言った。 「そ…っ、そういうのは女性にするものです!!」 俺の言葉にアスランはさらに顔を真っ赤にして俺に返事をする。 まさか、一国の王が部下如きの自分にキスするだなんて思っても見なかったのだろう。 俺の行った行動にアスランはかなり動揺していた。 正直言ってその姿はかなり可愛い。 「・・・・・・陛下は馬鹿です・・・。少しだけカーティス大佐の気持ちがわかってきました」 動揺するアスランの姿を笑いながら見ていたら、 アスランはとんでもない事を言ってきた。 しかも溜め息混じりに言ってきたのだ。 むしろジェイドの気持ちが分かったって、どういう事だ? 「アスラン・・・お前、ジェイドと同じになるなよ」 一瞬だけジェイドっぽくなったアスランを想像して、消した。 恐ろしく嫌だ。 想像するだけで嫌だ。 消している俺の行動が面白かったのか。 アスランが小さい声で笑っていた。 俺が大好きな、いつもの笑顔で。 そして俺たちの目線が合った瞬間、二人して、笑った。 「お前は悪魔じゃない」 「え……?」 俺がそう言うと、アスランはきょとんとした顔になった。 こんな優しい人間を、悪魔だなんて言わさせるなんて……。 悪いのはアスランじゃないんだ。 本当に悪いのは、アスランにそういう命令を出した張本人。 ……俺だ。 「悪魔なのは、アスランにこんな命令出した俺なんだよ」 「・・・陛下」 「責めたかったら、俺を責めればいい。俺を殴ってでもいい」 「…いいえ、違いますよ」 「え……?」 「陛下は悪魔じゃありません。…私が一番良く知ってます。陛下は優しい人です」 そう言ったアスランの顔は、今まで見た事のないほどの笑顔で……。 アスランの顔を見た瞬間、もう一度、あの衝動が湧き出てくる。 もう一度、その唇に触れたい、と。 この際いっその事、告白してしまおう。 男なら、潔くだ。 そう決意して、俺はもう一度アスランを抱きしめ口づけた。 「へい…か…?」 「アスラン・・・愛してる」 あまりの突然の告白。 案の定、いきなり言われたからアスランはきょとんとしている。 そして、段々と顔が赤くなっていって…… 「・・・・・・え?」 「分からない様だったら、もう一度言うぞ?アスラン」 「え・・・えぇ・・・!?あの……」 俺の言葉にアスランは驚いている。 いきなりの告白された事もあるかもしれないけど。 ・・・しかも、一国の王が、だ。 皇帝が自身の部下に…しかも同性に告白するなんて 当事者じゃなくても、普通は驚く。 「覚悟しておけよ?アスラン・フリングス少将」 「・・・・・・」 「返事は?」 「はっ、はい・・・!」 「よろしい」 俺が命令口調で言うと思わず返事をしてしまうアスランは、本当に真っ赤な顔で驚いていて。 そんな顔を見て俺は笑って、アスランの手を掴んだ。 そう、今は雨が降っている。 こんな長い間雨に打たれていると風邪を引く。 とりあえず、ずぶ濡れのアスランをタオルで拭いてやろう。 俺がそんな事すると、滅相もないってアスランは拒絶すると思うけど。 そういう時には、命令すればいい。 本当、自分はとてもずる賢い人間だと思う。 アスランの手を引っ張って歩き始める俺に、 アスランは戸惑いながらもついて来てくれる。 それだけで、俺は上機嫌だ。 恋しい人とこうして歩けるだけで 俺は、とても幸せ者だ。 □END□ 2月6日 修正完了。 個人的には、こう言う話が大好きです。 ピオフリ…いいですよねww