+Not gentle a feeling+




「おや……、ガイ?」



用事を終えて軍へ帰るジェイドの横を、知っている人物が横切った。



「お、ジェイドの旦那じゃないか!」



ジェイドがグランコクマに帰ってきて半月。
同じ首都に住んでいるガイと会うのは、これが初めてだった。


同じ首都に住んでいても、ジェイドは軍所属、ガイはガルディオス家の貴族。
暮らしが全く違うというのが理由かもしれない。
それ以前にジェイドは仕事柄、昼間に城下町を歩く事は、そんなに無い。


「まさか、こんな所でジェイドに会うとは思わなかったよ…」
「私もです。てっきり貴族院にでも入り浸ってるのかと思えば、
ブウサギ達と一緒にいるとは…驚きです」


ジェイドはチラッとブウサギを見る。
マルクト皇帝、ピオニー陛下のペットのブウサギ達だ。


「旦那、それ知ってて言ってるだろう…」


ガイは溜め息をつきながらジェイドに言った。


「おや、バレましたか?」


ガイに言われたジェイドは至って涼しい顔でそう言った。

ガイはグランコクマに帰ってきてからピオニー陛下の命令で
陛下のペットのブウサギの世話を任されている。


全く貴族としてマルクトに帰ったのかと思えば、ブウサギの世話係。
これじゃあ何の為に帰ったのか…と、最初聞かされた時にはジェイドは苦笑していた。



「これじゃ、ファブレ公爵の屋敷にいた時のと同じ扱いですね」
「まだ、ルークの方がマシさ…」



ガイはブウサギの頭を撫でながら苦笑した。
プウサギ達もガイに人見知りせず、むしろ引っ付いている。
彼は、動物に好かれるタイプなのだろう。



「ルーク…ですか」



ジェイドは"ルーク"と言う言葉に反応した。



ガイはルークの事が好きだ。
ガイ本人は気付かないが、周りの人間にはバレバレ。



当人のルークは多分気付いていないだろうが。



ジェイドは、その事に対しては、内心少し気に食わないでいた。
かといってルークが嫌いな訳でもない。
むしろルークをからかう事が一つの趣味になりつつある。



まあ、それはジェイド自身、自覚はしている。
自分がルークに『嫉妬』している事を。



「そういえば、旦那はルークに手紙を出したのか?」
「手紙?……ああ、貴方は確かグランコクマに住んでからルークに手紙を出してましたね。
私は手紙なんて古臭いもの嫌いなので出しませんよ」



ジェイドの言葉にガイはハハ…っと笑った。



「まっ、それが旦那らしいや」
「旦那なんて呼ばないで下さいよ。仮にも貴方の方が位は上ですし」



ジェイドがそう言うとガイは意外そうな顔をした。



「旦那って、そう言うの気にするタイプなんだ」
「いいえ、全然☆」



満遍の笑顔でジェイドが言うと、ガイはやっぱり…という感じの表情をする。



「まあ、それがジェイドって感じだよな」
「そうですか?」
「ああ」



ガイは頷く。


自分は、ガイにそう見られているのか。
と、ジェイドは下を見ながら考えていた。



「そうですか。…って、あの…ガイ、ちょっといいですか?」
「ん?どうしたんだ旦那」



ジェイドはブウサギを見て、不思議に思った。
最後に、ピオニーの私室に入った時にいたブウサギが、何か、違う。



「何か陛下のブウサギ…1匹増えてません?」
「さすがはピオニー陛下の幼馴染みなぁ…」



「うんうん」と一人感心しながら、ガイは新しく増えた一匹のブウサギをジェイドに見せた。



「やっぱり……。またあの人は数を増やして……、今度は何て名前なんですか?」
「このブウサギの名前“ルーク”ってつけたんですよ、ピオニー陛下は」
「また人の名前を勝手につけたりして。ルークが知ったら怒るでしょうね〜」



そう言いながら、ジェイドはブウサギの“ルーク”をジッと見つめる。
確かにルークと名付けられたのが解る気がした。
明らかに体の色が赤みがかっている所が、ルークの髪の色に似てるから。



「旦那、何か楽しそうに言ってるなぁ…」
「だって楽しみじゃないですか〜☆ルークが怒る顔を想像するのは・・・」
「そうですか…」



ジェイドの冗談にガイはもう苦笑するしかない。



「それにしてもガイはルークの事になると話し方が数段明るくなりますね」



ジェイドがそう言ってガイを見ると、ガイが一気に顔を赤らめているのが分かる。



「え!?そうかな??」
「はい」



頭を掻きながら照れくさそうにガイは返事をした。
その姿を見ると、ほんの少しだけ、胸が痛くなる。



「…そんなに俺って変わる?」
「ええ。そりゃあもう…」




『本当、愛しそうに…ね』
ジェイドは心の中で呟いた。



「旦那だってルークの事になると、いつも楽しそうにしているじゃないか」
「私がですか?」



疑問系にそう答えると、ジェイドはメガネを中指で押し上げてる。



「違います。私はルークにちょっかい出すと苦しむ『貴方の顔』を見るのが好きなんですよ」



ジェイドはニヤ…と笑った。



「俺…?」



ガイは何なのか解らずにジェイドを見る。



「貴方の今のその顔から、私の力量でどこまで変らせる事が出来るのか。
考えただけで……笑いが溢れてくる」



そう言って、ガイの頬にジェイドの手が触れる。



「旦那……」



ガイが何か気づいた顔になる。
その瞬間にジェイドは触れていた手をパッと離した。



「冗談ですよガイ」



その言葉に、ガイはハッとした顔で頭の中で考えてた考えを消しているようだった。




「あ、あんたなぁ…!!」
「何考えてるんですか〜??」




面白そうに聞くとガイは溜め息をついた。



「ルークがいないからって俺で遊ぶなよ……」
「これは失礼」



ジェイドが笑顔で謝るとガイは、はぁ…と息を吐いた。



「まぁ、旦那の冗談はこの辺にして…と。
俺、そろそろブウサギをピオニー陛下の所に返さないと行けないので」



ジェイドはブウサギの方を見る。
ふいに自分と同じ名前のブウサギと目線が合う。



「そうですね。陛下はブウサギがいないと生きていけないアホ体質ですからね〜」



笑顔でブウサギのジェイドを見ると、
ブウサギのジェイドは怖がってガイの後ろに隠れてしまった。



「ピオニー陛下も凄い言われようだなぁ…」



ガイはブウサギのジェイドの事に気付いていないようだった。



「まあ、とりあえずはこの辺で」
「ええ。それでは」



ガイはブウサギ達を連れて、宮殿の方へ歩いて行く。
ジェイドはガイが宮殿へ向かって歩いていく姿をジッと見つめていた。
そしてガイの姿が見えなくなると、ジェイドは静かに溜め息をついた。



「こんなの私の性分ではないはずなんですけどね…」



思わず、ガイに言う所だった。とジェイドは自分に反省してみる。



「自分に対して反省するだなんて、自分らしくない、か」



ジェイドはそう呟いて軍の方へ歩いて行った。





■END■
2月5日 修正完了。



友枝からのリク小説を友枝に送った時のを加筆・修正しました。
かなりの私的構造設定でお送りいたしました。